カンボジアを代表する観光地として知られるアンコール遺跡群。なかでもアンコールワットは世界的に有名ですが、シェムリアップ周辺にはほかにも数多くの寺院や都市遺跡が残されています。
巨大な人面像が並ぶバイヨン寺院、巨木と石造建築が一体となったタプローム、精緻な彫刻で知られるバンテアイスレイなど、それぞれ建造された時代や宗教、建築様式もさまざまです。さらに郊外まで足を延ばせば、王朝初期の歴史を伝えるロリュオス遺跡群や、密林の中に崩れた建築が残るベンメリアもあります。
この記事では、アンコール遺跡群の歴史や特徴を簡単に紹介しながら、実際に訪れた主要な遺跡をエリアごとにまとめて紹介します。
この記事の概要
アンコール遺跡群とは?

アンコール遺跡群は、カンボジア北西部のシェムリアップ周辺に広がる、クメール王朝時代の都市や寺院などからなる大規模な遺跡群です。9世紀から15世紀にかけて築かれた歴代王都の跡が残り、アンコールワットやアンコールトムだけでなく、数多くの寺院、貯水池、堤防、運河、道路なども含まれています。
遺跡が分布する範囲は広く、それぞれの時代の王が築いた寺院を巡ることで、クメール王朝の歴史や宗教、建築の変化をたどることができます。1992年には「アンコール」としてユネスコの世界遺産に登録され、東南アジアを代表する考古遺跡の一つとなっています。
クメール王朝が築いた巨大な遺跡群
アンコール遺跡群の歴史を理解するうえで重要なのが、9世紀から東南アジアで勢力を広げたクメール王朝です。王朝初期には現在のロリュオス周辺にハリハラーラと呼ばれる王都が置かれ、プリアコーやバコン、ロレイなどが築かれました。
その後、ヤショーヴァルマン1世の時代に王都の中心が現在のアンコール地域へ移り、歴代の王によって新たな寺院や都市が次々と建設されていきます。アンコールワット、アンコールトム、バイヨンなども、こうした長い王都建設の歴史の中で誕生したものです。遺跡群全体を見ると、一つの時代に完成した都市ではなく、数百年をかけて拡張・変化してきた巨大な王都圏だったことが分かります。
ヒンドゥー教と仏教が残した寺院建築
アンコールの寺院には、ヒンドゥー教と仏教という二つの宗教が深く関わっています。初期から中期にはヒンドゥー教の影響が強く、シヴァ神やヴィシュヌ神を祀る寺院が数多く建設されました。12世紀前半にスールヤヴァルマン2世が築いたアンコールワットも、もともとはヴィシュヌ神を祀るヒンドゥー教寺院です。
その一方、12世紀後半のジャヤヴァルマン7世は仏教を篤く信仰し、バイヨン、タプローム、プリアカン、ニャックポアンなどの仏教寺院を築きました。時代によって信仰の中心が変化したため、神々や仏像、レリーフなどにもその違いが表れており、宗教の変遷を意識しながら巡ると各遺跡の特徴がより分かりやすくなります。
世界遺産・アンコール遺跡群
アンコールは1992年にユネスコの世界遺産に登録されました。対象は有名な寺院だけではなく、約400㎢に広がる考古学的景観で、寺院群のほか、かつての都市跡や巨大な貯水池、堤防、運河、道路なども残されています。これらは、クメール王朝が高度な建築技術だけでなく、大規模な都市計画や水利システムを築いていたことを伝える重要な遺構です。
また、アンコールは過去の遺跡として保存されているだけではなく、現在も周辺には多くの人々が暮らし、寺院や僧院で信仰が続いています。歴史的な都市遺跡であると同時に、現在まで文化や信仰が受け継がれている場所でもあります。
アンコール遺跡群の広がりと位置関係
アンコール遺跡群というとアンコールワット周辺をイメージしがちですが、実際にはシェムリアップ周辺の広い範囲に遺跡が点在しています。アンコールワットの北には巨大な城壁都市アンコールトムがあり、その周辺から東・北東方向にはタプローム、プリアカン、ニャックポアン、タ・ソム、東メボンなどが続きます。
さらに郊外へ目を向けると、アンコールに王都が移る以前の歴史を伝えるロリュオス遺跡群、精緻な彫刻で知られるバンテアイスレイ、シェムリアップ中心部からさらに離れた場所にあるベンメリアなどもあります。この記事では、こうした位置関係を踏まえながら、それぞれの遺跡をエリアごとに紹介していきます。
アンコールワットとアンコールトム周辺の遺跡

アンコール遺跡群の中心部には、アンコールワットとアンコールトムをはじめ、クメール王朝を代表する数多くの寺院が集まっています。建造された時代や信仰された宗教はそれぞれ異なり、巨大な寺院都市から森林に包まれた寺院、貯水池の中に築かれた祠堂まで、その姿はさまざまです。
ここではアンコールワット周辺からアンコールトムの北東方面に広がる主要な遺跡を中心に、それぞれの特徴や見どころを紹介します。
アンコールワット

アンコール遺跡群を象徴するアンコールワットは、12世紀前半にスールヤヴァルマン2世によって築かれた巨大寺院です。当初はヒンドゥー教のヴィシュヌ神を祀る寺院として造られ、後に仏教寺院としても利用されてきました。
中央祠堂を中心に塔がそびえる壮大な外観だけでなく、回廊の壁面を埋め尽くす精緻なレリーフも大きな見どころ。建築、彫刻、規模のいずれを見ても、クメール建築の到達点を感じられる遺跡です。
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バイヨン寺院(アンコールトム)

アンコールトムのほぼ中央に位置するバイヨン寺院は、12世紀末から13世紀初頭、ジャヤヴァルマン7世の時代に築かれました。最大の特徴は、多数の塔に刻まれた巨大な四面像。境内を歩くとさまざまな方向から穏やかな表情の顔が現れ、アンコールワットとはまったく異なる雰囲気を味わえます。
また、回廊には戦争の場面だけでなく市場や暮らしの様子なども描かれており、当時の人々の生活を知る手掛かりにもなっています。
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プノンバケン

アンコールワットとアンコールトムの間にある小高い丘に築かれたのがプノンバケンです。9世紀末から10世紀初頭、ヤショーヴァルマン1世によって建立されたヒンドゥー教寺院で、アンコール地域へ王都が移された初期の歴史を伝える重要な遺跡です。
山頂には段状の寺院が築かれ、周囲には小塔が並びます。高所にあるためアンコールの平原を広く見渡すことができ、後世の巨大寺院が建設される以前のアンコールを知るうえでも興味深い場所です。
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アンコール東部・北東部の遺跡

アンコールトムの東から北東にかけてのエリアには、タプローム、プリアカン、ニャックポアン、タ・ソム、東メボンなど、時代や性格の異なる寺院が点在しています。
特に12世紀末のジャヤヴァルマン7世が築いた仏教寺院が多く、巨木と遺跡が一体となった景観や、水を利用した独特の寺院など、アンコールワット周辺とはまた違った魅力があります。一方、10世紀に建てられた東メボンもあり、複数の時代のクメール建築を比較しながら巡れるエリアです。
タプローム

タプロームは、12世紀末にジャヤヴァルマン7世が母に捧げた大乗仏教寺院です。現在では、巨大な樹木の根が回廊や石壁を包み込む姿で広く知られています。崩れた建物と熱帯の植物が一体となった景観は、この遺跡を象徴する見どころ。
一方で、創建当時は多くの人々が関わる大規模な宗教施設であり、精緻な彫刻や祠堂、回廊なども残されています。映画『トゥームレイダー』のロケ地として知られる場所でもあります。
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プリアカン

プリアカンは、ジャヤヴァルマン7世が父に捧げるために建立した大規模な仏教寺院です。寺院であると同時に、かつては宗教や教育の拠点として多くの人々が活動する複合施設でもありました。
長い参道からいくつもの門や回廊を抜けて中心部へ進む構成が特徴で、崩れた石造建築や巨木に覆われた遺構も見られます。迷路のような境内を歩きながら、ジャヤヴァルマン7世時代の壮大な寺院造営を体感できる遺跡です。
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ニャックポアン

ニャックポアンは、ジャヤヴァルマン7世の時代に築かれた、水を中心とする独特の仏教寺院です。巨大な人工貯水池ジャヤタターカの中央に設けられた人工島にあり、中央の池とその周囲に配置された小池によって構成されています。
伝説上の聖なる湖アナヴァタプタを表現したものと考えられ、水による浄化や治癒の思想とも結びついていました。現在は長い木道を渡って向かうため、水辺の景観も含めて楽しめます。
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タ・ソム

タ・ソムは、12世紀末のジャヤヴァルマン7世時代に建立された比較的小規模な仏教寺院です。入口となる塔門にはバイヨンを思わせる巨大な人面像が刻まれ、境内にはデバター像や植物文様などの細かな装飾が残されています。
プリアカンやタプロームほど規模は大きくありませんが、その分、建築や彫刻を間近で観察しながら巡れるのが魅力。東側の門を巨木の根が覆う景観でも知られています。
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タ・ソムの見どころ・感想※人面塔と精緻な彫刻が残る小さな寺院
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東メボン

東メボンは、10世紀にラージェンドラヴァルマン2世によって建立されたヒンドゥー教寺院です。現在は陸上にありますが、もともとは巨大な人工貯水池「東バライ」の中央に浮かぶ人工島に築かれていました。
中央部には5基の煉瓦造祠堂が配置され、基壇の四隅には大きな象の石像が残されています。ジャヤヴァルマン7世時代の仏教寺院とは年代も建築様式も異なり、アンコール建築の変化を比較するうえでも興味深い遺跡です。
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東メボンの見どころ・感想※かつて巨大な貯水池に浮かんでいた寺院
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シェムリアップ近郊・郊外の遺跡

アンコールワットやアンコールトム周辺から少し足を延ばすと、シェムリアップ近郊・郊外にも個性的な遺跡が点在しています。
精緻な彫刻で知られるバンテアイスレイ、アンコールに王都が移る以前の歴史を伝えるロリュオス遺跡群、そして密林の中に崩れた石造建築が広がるベンメリアなど、それぞれ中心部の寺院とは異なる魅力を持っています。年代や建築様式も異なるため、アンコール遺跡群の歴史をより広い視点から知ることができます。
バンテアイスレイ

バンテアイスレイは、アンコール中心部から北東へ離れた場所にある10世紀のヒンドゥー教寺院です。967年に建立され、王ではなく高位の僧侶・知識人ヤジュニャヴァラーハが造営に関わったことで知られています。
寺院自体は比較的小規模ですが、赤みを帯びた砂岩に刻まれた彫刻は非常に緻密で、破風やリンテルにはヒンドゥー神話の場面や植物文様が細部まで表現されています。その完成度の高さから、アンコール遺跡の中でも特に彫刻の美しさを楽しめる寺院です。
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バンテアイスレイの見どころ・感想※赤い砂岩に刻まれたクメール美術の傑作
カンボジア・シェムリアップにあるバンテアイスレイについて紹介します。 赤い砂岩に刻まれたクメール美術の傑作です。
ロリュオス遺跡群

ロリュオス遺跡群は、シェムリアップ中心部から南東へ約15km、9世紀の王都ハリハラーラが置かれた地域に残る遺跡群です。代表的なプリアコー、バコン、ロレイはいずれもヒンドゥー教寺院として築かれ、それぞれ王家の祖先祭祀、国家寺院、大規模貯水池と結びついた寺院という異なる役割を担っていました。
アンコールワットより数世紀前の建築で、後のアンコールで発展する寺院山や水利施設を取り入れた王都づくりの原型を見ることができます。
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ロリュオス遺跡群の見どころ・感想※アンコール以前の王都ハリハラーラヤに残る古代寺院
カンボジア・シェムリアップ近郊にあるロリュオス遺跡群について紹介します。 アンコール以前の王都ハリハラーラヤに残る古代寺院です。
ベンメリア

ベンメリアは、シェムリアップ市街から北東へ約60km、森林の中に残る12世紀の大規模なヒンドゥー教寺院です。スールヤヴァルマン2世の時代に築かれたと考えられ、三重の回廊などアンコールワットと共通する建築的特徴を持っています。
現在は塔や回廊の多くが崩れ、巨大な石材の山に樹木の根や植物が絡みつく独特の景観が広がっています。整然と修復された寺院とは異なり、崩壊した建築の間を木道で巡ることで、森の中に残された巨大寺院のスケールを実感できます。
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ベンメリアの見どころ・感想※密林に眠る崩壊した巨大寺院
カンボジア・シェムリアップ郊外にあるベンメリアについて紹介します。 密林に眠る崩壊した巨大寺院です。
おわりに
アンコール遺跡群には、アンコールワットのような壮大な寺院だけでなく、王朝初期の建築、仏教寺院、水と深く結びついた施設、森林に包まれた遺跡など、それぞれ異なる魅力を持つ場所が数多く残されています。
9世紀のロリュオス遺跡群から、12~13世紀に築かれたアンコールワットやバイヨン寺院などへと見ていくと、クメール王朝の発展とともに寺院建築や宗教が変化していった流れも見えてきます。
同じアンコールの遺跡でも実際に巡ってみると印象は大きく異なるため、時間に余裕があれば複数の遺跡を訪れて比較してみるのもおすすめです。それぞれの詳しい歴史や見どころについては、個別記事でも紹介しています。