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【書評】倉沢愛子『インドネシア大虐殺』は事件の背景・経緯をわかりやすく解説

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今回は、倉沢愛子『インドネシア大虐殺 二つのクーデターと史上最大級の惨劇』(中公新書)という本について紹介します。

インドネシア大虐殺の発端となった事件や背景、経緯などがわかりやすくまとめられた本です。

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倉沢愛子『インドネシア大虐殺』の書籍情報

タイトル インドネシア大虐殺 二つのクーデターと史上最大級の惨劇
著者 倉沢愛子
出版年 2020年
出版社 中公新書

目次

本の目次

  • まえがき
  • 序章 事件前夜のインドネシア
  • 第Ⅰ章 九・三〇事件――謎に包まれたクーデター
  • 第Ⅱ章 大虐殺
  • 第Ⅲ章 三・一一政変――「新体制」の確立
  • 第Ⅳ章 敗者たちのその後――排除と離散の果てに
  • 終章 スハルト体制の崩壊と和解への道
  • あとがき

倉沢愛子『インドネシア大虐殺』の内容紹介と感想

概要

『アクト・オブ・キリング』と『ルック・オブ・サイレンス』という2本の映画を見て興味を持った1960年代に起きたインドネシアでの大虐殺に関する一般向けの書籍がないか調べていたところ最近タイミングよく新書が出ていました。今回紹介する『インドネシア大虐殺』は2020年6月に出版されたばかりのまだ新しい本です。

著者の倉沢愛子さんは『日本占領下のジャワ農村の変容』(1992年)でサントリー学芸賞も受賞しているインドネシア研究の第一人者のようです。

本書は、1960年代のインドネシアで起きた九・三〇事件と三・一一政変という二つのクーデターとこの間に起きた五〇万人から二〇〇万人が命を落としたと言われるいまだに謎の多い大虐殺の真相に迫っています。

2つのクーデター

本書が取り上げる2つのクーデターのうちのひとつが九・三〇事件(1965年)です。これは陸軍将軍がスカルノ大統領の親衛隊により殺害された真相不明のクーデター未遂事件です。政府の公式見解では事件はインドネシア共産党が仕掛け実行したものだということになっていますが、陸軍内の内紛説、スハルトの陰謀説、欧米諸国の陰謀説、中国共産党の関与説についても説明されています。

もうひとつのの三・一一政変(1968年)は、後に大統領となるスハルトがスカルノを退陣へと追いやることになるクーデターです。学生や市民の反政府デモ、内閣改造とデモの激化により徐々にスカルノの権力基盤が揺らぎスハルトに権力移譲を迫られる様子が描かれます。

2つの政変の詳細と構図がその背景を交えて分かりやすく解説されています。

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大虐殺の実態と加害者、被害者の証言

本書のテーマである大虐殺は九・三〇事件と三・一一政変の間に起こりました。その実態は初めて知る人にとってはかなり衝撃的な内容です。殺戮に関与した加害者と被害者へのインタビューも掲載されています。

以下の記述の通り、当時の様子を悪びれることなく淡々と語る虐殺者の語りは、上記でも触れた『アクト・オブ・キリング』と『ルック・オブ・サイレンス』という2本の映画の中に出てきた人物たちが特殊なのではないといううことがよくわかります。

殺害の現場では、当初から「殺しても咎められない」という噂は広まっており、殺害行為に対する社会的批判も罰則も、報復もおこなわれなかった。しかも、「公的な利益のため」、つまり「お国のため」の行為だったというお墨付きを得たこともあって、アルゴジョたちはいっそう勢いづいた。今でも、自分たちの行為をあえて隠そうとはせず、問われれば武勇伝のように語る人びとが多い。筆者がフィールドワークをした際も、さほど苦労もせず、非常に多くの「元アルゴジョ」たちから直接話を聞くことができた。おそらく戦場で戦い、敵の命を奪う行為と同じような感覚だったのではないかと思われる。

※アルゴジョ…王朝時代の死刑執行人を意味する当時殺戮を指導した人たちの呼び名。

また一方で、事件を機に逃亡生活を強いられることになった作家のインタビューや事件当時国外にいたインドネシア人留学生たちの運命についても紹介されています。

殺戮の動機に対する分析

大量殺戮の動機については著者自身もいまだに大きな謎であると言います。

 いったいどうして彼らはこのような殺戮に手を染めたのだろう。この前例を見ないような大規模な殺戮の動機を、どのように説明すればよいのだろうか?
 その根底にあるのは政治的イデオロギーであり、共産主義は悪であるから退治しなければならないという使命感に起因するものだろう。しかし、いくらお国のためだとおだてられたにせよ、人は政治的信条でそう簡単に人を殺せるものだろうか。個人的な恨みならともかく、共産主義者を一掃せよという命令だけで、かくも残忍になれるものだろうか。

著者によれば政治的イデオロギー以外の要因として、神を信じない輩の殺害を正当化する宗教的な要因のほか、憎しみという感情を超えた外的要因があったとしています。その外的要因のひとつが共産主義者の残虐性を印象付ける情報操作とフェイクニュースの拡散です。もうひとつが諸外国の黙殺です。各国は大虐殺の情報を掴んでいたにもかかわらず、社会主義国の中ソは政治的な思惑から手を差し伸べず、西側諸国は共産主義の浸透の危機感から沈黙を守り続けたことが殺戮をエスカレートする一因になったとしています。

虐殺がエスカレートしていった要因の分析はどれも興味深いものではありますが、どれも納得がいくようで納得がいかないというのが正直なところで、怖ろしさとともに謎は謎のままとして残りました。

おわりに

以上、倉沢愛子『インドネシア大虐殺』についての大まかな内容についての紹介でした。

著者はおそらくフィールドワークは数多く行われているの方なので当事者たちの証言をもう少し読みたかったというのはありますが事件の全体像を理解するのには最適でした。

下記で紹介している2本のドキュメンタリー映画もセットで見ると勉強になります。

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